
2025 年 10 月、Microsoft が主要な OS である Windows 10 のサポートを終了した際には、多くの業界がパニックに陥りました。Windows 10 が保護されなくなり、サイバー脅威のリスクが高まることを恐れた組織は、Windows 11 への移行を急ぎました。
しかし、運用技術(OT)環境において Windows 11 への移行は必ずしも正解とは言えません。時期尚早のアップグレードは、十分に管理された長期サービスチャネル(LTSC)プラットフォームを維持するよりも、はるかに大きな運用リスクを招く場合があります。
事実、大半の OT システムは、標準の Windows 10 上で稼働していません。これらのシステムは Windows 10 LTSC または Windows Server で稼働しており、どちらの OS も今後数年間サポートが継続されます。
- Windows 10 LTSC 2019:2029 年 1 月まで
- Windows 10 LTSC 2021:2032 年 1 月まで
- Windows 10 IoT Enterprise LTSC:2032 年以降まで
- Windows Server 2016/2019/2022:2027~2036 年まで
つまり、Windows 10 は必ずしも OT 環境に突然のリスクをもたらすわけではありません。ただし、組織は OT 業務で Windows 10 を実行しているシステムを把握しておくべきです。
OT 環境内で Windows を実行するシステム
IT 環境における技術上の現状を把握することは非常に重要です。
一般的に、HMI とエンジニアリングワークステーションは Windows 10 LTSC 上で稼働しており、長期的な安定性、予測可能なパッチ適用、ベンダー認証を確保しています。
また、ほとんどの場合、ヒストリアン、SCADA バックエンド、コントロールサーバーは Windows 10 ではなく Windows Server 上で稼働しています。
組み込みパネルや特殊な OEM 機器では、特定のハードウェアと検証ベースラインに特化した Windows 10 IoT Enterprise LTSC が使用されるケースが多く見られます。
上記のアーキテクチャは計画的に構成されており、OT 環境は OS の迅速なアップグレードではなく、変化に対する安定性を主軸に設計されています。
2025 年の Windows 10 サポート終了が OT 環境に与える実際の影響
2025 年 10 月のサポート終了期限は、標準的な Windows 10 Semi-Annual Channel(SAC)に適用されます。一般的に、これらのバージョンは OT 産業システムではなく、IT 環境に導入されています。
LTSC ベースの OT 環境にとって、Windows 10 のサポート終了は、以下のように即座の影響ではなく段階的な影響を及ぼします。
- 長期にわたる移行プロセスが正式にスタート
- ベンダー認証サイクルが、新バージョンの LTSC と Windows 11 に移行中
- レガシーハードウェアにおけるドライバの可用性が徐々に低下
- プラットフォームが旧式になるにつれ、サポート対象であってもセキュリティ負債が蓄積
レガシー OT システムにおけるコンプライアンスと保険の実状
サポート対象の LTSC プラットフォームを稼働している製造企業は、依然として規制や保険会社からの高まる圧力に直面しています。
規制および保険の枠組みでは、OT環境におけるパッチ適用が制限されること、検証サイクルが長期に及ぶこと、および代替的な管理措置が必要であることを前提としています。
例としては以下のようなものがあります。
- NIS2:サイバーセキュリティリスク緩和の実証を義務化
- IEC 62443:パッチ適用、または同等の文書化されたプロテクションを義務化
- FDA 21 CFR Part 11(医療業界): システム整合性の検証を義務化
- NERC CIP(エネルギー業界): 安全なベースライン管理と復元の保証を義務化
さらに、今日においてサイバー保険会社は契約の締結前に、IT オペレーションについて以下の質問をする傾向が強まっています。
- OT システムのリカバリ速度はどの程度か?
- ランサムウェアにより、生産設備が永久に使用不能になる可能性がある?
- サポートされていないドライバや凍結されたイメージが、システム全体のリスクを生んでいないか?
問題は、もはや単純な「パッチ適用の有無」ではなく「安全かつ反復的なすばやいリカバリが可能であるか」にあります。
LTSC ベースのレガシー OT システムが直面する運用上のリスク
サポート期間が複数年残っていても、旧式の Windows プラットフォームには次のような構造上のリスクが蓄積しています。
- ハードウェアが故障すると、再インストールできなくなるレガシードライバ
- 提供を終了した OEM ディスクイメージ
- 単一のファームウェアバージョンに制限されたエンジニアリングワークステーション
- OT と IT の両領域にまたがる歴史
- 振舞い検知を受信できないエアギャップシステム
さらに、たった 1 度のランサムウェア攻撃、サプライチェーンの侵害、OS のアップグレードエラーでも、依然として以下のリスクにつながる可能性があります。
- HMI 機能の無効化
- ヒストリアンデータベースの破損
- アラームルーティングの遮断
- 数日/数週間にわたる生産停止
OT 依存の業界におけるダウンタイムは、業種や工場の規模によっては、1 時間あたり 3 万~200 万ドル以上の被害を及ぼすおそれがあります。
OT 移行の現実的なジレンマ: Windows 10 と 11 の比較ではなく、移行の時期と方法について
大半の製造企業にとって、現在 Windows の移行プロセスには、実状に即した 4 つの戦略的手法があります。
オプション1: Windows 11 への完全移行
この手法は、新しい生産ライン、グリーンフィールド展開、SCADA 仮想環境に最適です。
メリット
- 最新のエクスプロイト対策とセキュリティアーキテクチャ
- 2030 年代までの長期にわたるサポート期間
- 将来的な規制遵守の簡易化
リスク
- 多くのオートメーションベンダーは、Windows 11 認証に遅れが生じている
- ハードウェア更新、ソフトウェアの完全な再検証、極めて大規模なエンジニアリングダウンタイムが必要になる傾向がある
- 医薬品や規制の厳しい製造企業において、GxP の完全な再検証や生産停止の引き金となる可能性がある
オプション 2: Windows 10 LTSC から新バージョンの LTSC への移行
LTSC 2019 から LTSC 2021 への移行は、ベンダー認証、ハードウェアの互換性、長期の検証期間を維持できることから、産業環境で現在最も一般的かつ低リスクの手法となっています。
メリット
- Windows 11 への早期移行を回避
- 業務の中断を最小化
- アプリケーションの互換性を維持
リスク
- リカバリ上のリスクが残る
- ランサムウェア、ブリック状態のアップグレード、提供を終了した OEM イメージ、ドライバの再インストールエラーに関する脆弱性が残る
オプション 3: 補完統制を伴う長期 LTSC
多くの製造企業にとって、この手法が最も安全かつ費用対効果の高い戦略となります。このアプローチでは、バックアップ、リカバリ、OT 固有の許可リストが基本的なコントロールとなります。
この戦略により、以下の OT における最重要機能に対して最適なサポートが提供されます。
- 不変バックアップ:ランサムウェアによる前回正常起動時のイメージの削除や暗号化を防止
- ドライバを維持したベアメタルリカバリ:障害発生後に導入した新しいハードウェア上でも HMI の全機能を復元
- ワンクリックシステムリカバリ: IT の専門知識を持たないエンジニアでも、数分で障害が発生したマシンを復元
- エアギャップ環境向けアプリケーション許可リスト:署名やクラウドアクセスを行うことなく、不正な実行をブロック
- オフラインのリカバリ能力:インターネットや SIEM の可視性がない状況で安全なネットワークを維持するうえで不可欠
このアプローチによって、製造企業は以下が可能になります。
- 生産の安定性を維持
- 頻繁にパッチ適用できないシステムを保護
- 文書化された補完統制で監査基準を達成
- 不要なハードウェア更新や Windows 11 への早期移行を回避
手法 4: 産業システム向けの長期計画
このアプローチでは、製造企業は Windows 10 IoT Enterprise のライフサイクルを考慮し、OS の移行を IT の更新サイクルではなく、制御システムの最新化サイクルに一致させます。OT インフラにおける長期のサポート期間と独自の検証サイクルに対応し、OT 環境に実用的かつ安全な移行戦略を提供します。
この手法では、製造企業は一律に Windows 11 へのアップグレードを強制されるのではなく、以下を実現できます。
- 既存の LTSC システムを不変バックアップと許可リストで安定化
- HMI とエンジニアリングステーション全体にわたり、オフラインリカバリを標準化
- 迅速な復元オーケストレーションでヒストリアンと SCADA のサーバーを分離
- 管理された LTSC アップグレードまたは Windows 11 パイロットをラインごとに計画
- OS の移行を、IT の更新サイクルではなく、制御システムの最新化サイクルに合わせる
上記のワークフローは、現実に即した工場運営の仕組みと言えるでしょう。
オンデマンド仮想カンファレンス: Windows 10 以降における OT の選択肢を探る
オンデマンド仮想カンファレンス「Windows 10 サポート終了後における OT システムの保護」では、産業向けサイバーセキュリティの専門家が一堂に会し、次のテーマについて議論します。
- OT における Windows 11 移行の準備
- LTSC のライフサイクル計画
- バックアップ、リカバリ、ランサムウェアに対するレジリエンス
- 製薬業界、エネルギー業界、メーカーにおけるコンプライアンスの実状
- OT で発生する実際の攻撃とリカバリのシナリオ
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Acronis について
2003年にシンガポールで設立されたスイス企業であるアクロニスは、世界15か所にオフィスを置き、60か国以上に従業員を擁しています。Acronis Cyber Platformは150か国に26言語で提供され、21,000社を超えるサービスプロバイダーに採用され、75万社以上の企業を保護しています。



