先般、Forrester社のChannels and Partnerships担当プリンシパルアナリストのジェイ・マックベイン(Jay McBain)氏とお目にかかる機会を得、新型コロナウイルスによる景気後退が販売網、特にMSP(マネージドサービスプロバイダー)の販売網に与える影響について、有意義なお話を伺うことができました。会話の話題は多岐にわたり、販売網の現状や、その課題、例えばこの経済的に困難な状況下で何社が生き残れるかなど話し合い、この世界規模の感染拡大がMSPにもたらす本質的なチャンスについて分析を行いました。
以下はその際の会話の内容となります。対談の全内容は動画で視聴できますが、簡潔に申し上げると、販売網に含まれる企業の多くは、ここ暫くの間、事業存続に苦闘することになるが、その先には途方もないビジネスチャンスが待ち構えている、としています。
MSPの現状 まず初めに、販売網の現状を伺いました。現在、サービスプロバイダは世界中に60万社あり、アメリカだけでも16万社あります。MSPは全世界で5万社です。とはいえ影の販売網が増加し、現在の販売網の定義方法に大きな影響を及ぼしています。 ジェイ氏が指摘するように、現代の企業はほぼすべてがテクノロジー企業。従来のリセラーについて言うと、世界中の全27業種の間で、テクノロジーサービスを販売する企業が現在は何万社も増加しています。たとえば、会計事務所は30万あり、そのうち81%がテクノロジーサービスを提供しています。また、デジタル業者では、20万社のうち78%がテクノロジーサービスを提供しています。
三つ叉販売網 続いて、ジェイ氏が言及する「三つ叉販売網」に話題が進み、興味深い話を聞くことができました。私たちはこれまで数十年にわたり、実際に取引を行っている顧客を対象に販売網プログラムを構築してきました。取引先へのインセンティブや取引先の分類に利用しているのは、ゴールド、シルバー、ブロンズに分ける伝統的なやり方の販売網プログラムです。しかし現在は、実際の取り引きを行う販売網を挟んで両側にインフルエンサー販売網と保持販売網が登場しています。これは、購入に影響を与える販売網、または実装、構成、継続性といった顧客維持に不可欠なサービスを提供する販売網を意味します。 つまり、今や販売網の80%が実取引には関わっていないということであり、IT販売網全体の捉え方を変えざるをえなくなっています。
これについてジェイ氏は数字を使って次のように説明しました。「販売網を通じた実際の取り引き額は2.6兆ドルで、3.6兆ドル(全世界の企業および行政機関のテクノロジー支出額)のほぼすべてが、販売網の影響を受けたり、サービスを提供されたりしたものです」これは、マネージドサービスでは1,860億ドルに換算され、アメリカのそれは1,000億ドル足らずです。
新型コロナウイルスが販売網に与える影響 コロナ以前の販売網全体の成長率は1桁台でした。Forresterの最新の予測によると、販売網のほぼ25%が「回復不能の財政難」により姿を消してしまいます。この淘汰の割合は2008年のリーマンショックのときに見られた数字とほぼ同じです。 現在は、60%を超える取引先が「利益繰り延べモード」に入っています。プロジェクトは延期され、アップグレードは中止され、契約は再交渉となり、請求金額の支払いの遅れや未払いが発生しています。政府が緊急経済対策を行っても、販売網の大半は、どうしたって生き延びることはできないでしょう。この状況は早期退職や吸収合併、あるいは計画的倒産のようでもあります。 しかしジェイ氏は次のように指摘します。経済が好調のときでも、収支合わせに苦労する販売網がおよそ25%を占めています。この25%は今回の不況の影響を最も強く受けることになりますが、手元資金が比較的多い会社や、独創的な会社、賢いキャッシュフロー管理ができている会社は、多少うまくやっていくでしょう。
不況から得た教訓として 2008年の経済崩壊から私たちは多くのことを学びましたが、新型コロナウイルスによる景気後退からも多くの教訓を得ることになるでしょう。 2008年の教訓といえば、政府が緊急経済対策を打ち出すスピードが十分でなかったこと、さらに、この対策に投じられた金額があまりに少なかったため、危機的なキャッシュフロー管理を好転させられなかったことです。 今回の新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対して、政府は前回より迅速に対策を打ち出し、追加の緊急対策費さえ準備しています。それでも、これではこのキャッシュフロー危機には十分と言えそうにありませんが、これはパンデミックの最中のこのトリアージフェーズで緊急に必要なものです。
他には、ベンダーが取引先に利用できる資金をもって介入し始める、ということがありました。これはよいPR活動ではありましたが、実際にはこの危機的状況を乗り越えるための資金をMSPに提供したわけではありません。特に、こうした信用取引のほとんどには新規購入が絡んでいたからです。 ジェイ氏はこのコロナ危機が始まる以前から、2020年は直接販売が間接販売を上回る史上初の年になるだろうと予測していました。パンデミックによってこの予想が早く現実になったにすぎません。報道によれば、AzureとGoogleの2020年第2四半期の成長率はそれぞれ59%と51%です。SaaS企業の成長率は概ね30%だとされています。販売網を通して行われているビジネスは、そのわずか20~30%です。
MSP販売網にとっての朗報 幸いなことに、この景気後退の局面にあって、マネージドサービスは1.9%の減少のみにとどまっています。つまり、このビジネスモデルは今回のような危機にやや強いということが理解できます。コロナ禍のトリアージフェーズを経験し、今後エンドユーザーは活動を再開するにあたり、自動化を模索し始めるでしょう。このような需要があるということは、リモートワーカーが簡単に効率よく仕事ができるようにしたいと考える組織を、規模を問わず支援できるスキルを備えたMSPにとって申し分のないチャンスが生まれることを意味します。 動画はこちらhttps://youtu.be/PfDqEaBxGsU 最後に、コロナ禍でMSPに実際にもたらされた3つのチャンスについて、ジェイ氏に説明してもらいました。
- 販売網のブランド力の向上。クライアントは、ほとんどの販売網が社員のリモートワークを可能にするために本気で取り組み、期待をはるかに上回る仕事をしてくれたことを目の当たりにしました。経済が再開したときに、販売網のブランドが思い出されることになるでしょう。
- 販売網は機敏になり、応答性が高くなり、部門の垣根を越えた対応が可能に。こうしたスキルは、今後出てくるクライアントのニーズに応えるために不可欠なものであり、テクノロジープロジェクトや自動化、業務効率化などが新たに始まるときにはそれらが中心になるでしょう。つまり、MSPはこれまで以上に備えができているといえます。
- 変化は必ずチャンスを生み出す。ミステリーには余白があります。かつて、クラウドに移行するクライアントはさまざまな不安を抱えていましたが、MSPはそれを取り除くことで収益を生み出しました。これは力強い動きであり、これによりクライアントとの関係が強化されると同時に深まりました。現在起きているリモートワークへの移行に伴い、MSPはさまざまな脅威に対抗し、ホームオフィスで使用されている個人向け製品を保護しなければなりません。中小企業向け市場や部門レベルで販売機会が増えていることもあり、MSPはこれまで以上に多くのシリーズ製品を提供できるようになっています。MSPとMSSP*は、この在宅勤務の大変革に向けて申し分のないポジションにいます。
終わりに 45分にも及ぶこの対談は刺激的であり、ジェイ氏から多くの気づきとヒントを得ることができました。実際の会話の状況をぜひご聴講頂きたいと思いますが、ジェイ氏のこの言葉を引用しこのブログの結語とさせていただきたいと思います。 「世界はやがて開放され、MSPはコロナ禍以前よりもはるかに強くなり、この危機を脱すると考えています」 *MSSP - マネージドセキュリティサービスプロバイダー(Managed Service Security Service Provider)の略語
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